続・母もぼやいてみたいなり

心機一転。しかし母はぼやき・戯言・寝言を続けます。どうぞよろしくお願いします。

いよいよ明日

今日で長男の夏休みは終了。

いよいよ明日、学校へ戻る…

そう、待っているのは「学校謹慎」という懲罰。

数日間、別室で一人きりで勉強することになる。

勿論その間、生徒指導の先生方と話し合いがあり、

彼は反省文を書き、私も間もなく呼び出されることになる。

 

遠い昔のように感じられるあの15日間…。

今では笑い話に出来るけれど、当時は必死だった。

毎日不安で堪らず、意味もなく玄関先をウロウロして、

彼のもとに続いている空を見上げて、色々と呟いてた。

傍から見ると馬鹿げているだろうこと…でもやらずには居られなかった。

彼のために買うお菓子…段々と溜まっていく様子、

洗濯物が少なくなっていくこと、

炊飯器に残るご飯が多くなること、

普通のはずだった毎日がそうでなくなることを知った気がした。

 

「大海が元気で帰ってきますように」

「大海が無事でありますように」

折り鶴を折って、彼の机の上に置いていた。

毎日少しずつ増えていく、私と主人からのメモ。

次男坊も自分の大切なものを、大海の机に置いて、

兄の無事をひたすら祈っていた。

 

理由を聞けば、学校でのこと、特に勉強について悩んでいたらしい。

しかし、4万を超える大金を持っての今回の家出。

しかも絶妙なタイミングを計って…つまり計画的だった。

彼にとってこれは大冒険であったろう、しかし試練でもあったに違いない。

話を聞けば、JRで堺市付近まで南下し、同市内で1週間ほど過ごしたらしい。

そして地下鉄で北上し、天王寺で環状線に乗り換え、

湾岸エリアをウロウロして、結局京セラドームで私たちに見つかることとなった。

 

家出10日目あたりで、財布の中身が寂しくなってきたらしい。

PiTaPaを使ったのがその証拠で、残金は食費に回したようだ。

本人曰く、「早く僕を見つけて欲しい。早く帰りたい、と思っていた。」

それなら帰ってくりゃぁいいのだが、10日以上も経って、

どんな顔して帰宅していいのか、おそらく分からなかったのだろう。

結局そこから5日、ギリギリの日々だったようだ。

私たちが見つけた時、最後の晩餐となったカツサンドの空が彼の傍に転がっていた。

財布の中身はゼロ。端数のお金は寄付してしまっていた。

 

15日間、風呂にも入らず、何枚かTシャツを買って着替えるだけ。

寝る場所は、基本、公園のベンチ。時々野良猫と添い寝。

手足は真っ黒に汚れ、髪の毛もボサボサ。

どう見ても大人に見えない15歳の少年が、こんな姿で街をウロついても、

だれ一人として声を掛けてはくれなかったそうだ。

それを聞いて、やはり悲しく感じた…。田舎町ならそんなことはおそらくない。

でも、悪い誘いもなかった点では、救われた気がした。

 

彼が帰宅してから、随分と話した。

帰宅して2~3日は興奮状態で、目つきもすわっていて普通ではなかったし、

全く悪びれておらず、ただただ冒険話をするだけだった。

しかし時間が経つにつれて彼も落ち着いてきて、

少しずつ冷静に今回のことを見つめなおす事も出来てきた。

この家出の事、その間の家出された側の人々の事なども。

これからの事、将来の希望・目標、それに向けての歩むべきステップ…。

兄弟として、親子としてすべきこと。

彼がやりたいこと、彼がやるべきこと…。

本当によく顔と顔をつき合わせて、沢山話した。

 

ある時、あまりに歯痒い思いをして、私が大海をボコボコに殴ったことがある。

しかし、何故か2人で泣きながら抱き合っていた。

思春期に差し掛かってからというもの、お互い、距離を置くようになり、

私も大海を大人として扱おうとし、大海も大人になろうとしていた感じがあった。

でも、彼だってまだ15歳…子供の面が沢山あるのだ。

甘えたい気持ちがあるはずなのに、それを随分と堪えさせてしまったのだろう。

彼が泣きながら抱き付いてきたとき、でっかい図体なのに、

やはり子供らしい柔らかさが感じられて、

正直私自身も戸惑った…何か誤解してたんじゃないかな、と。

「もう大きいんだから」「子供扱いしないで」「高校生やろ!」

こんな言葉を交わし続けていたが、お互い無理してたんじゃないだろうか。

年齢、身体、そういうこと抜きにして、「親と子」であるべきじゃないか。

そんな風に思った。

 

明日から暫く大海も辛いだろう…。

でも覚悟は出来ているようだ。

彼の15日間の大冒険はまだ終わっていない。

自分で今回の行動に対する責任を取る、これこそこの冒険の終わり。

1年生の夏休み全てを費やしての大冒険になってしまった。

しかし、きっと忘れない、忘れられない夏になっただろう。

明日、彼は決着をつける。少し大きくなれるはず。